しかし、実際に戦って初めて分かる事がある。一人ではだめだ。
「侍戦隊シンケンジャー」は、スーパー戦隊シリーズの33作目の作品だ。
戦隊ヒーローの物語のクライマックス、元来ならば力が及ばないほど強大な敵の前に、一度はヒーローが絶望しかけてしまう展開が多い。そこを乗り切って立ち向かっていく燃え展開パターンが王道ではないかと思う。
しかし、「侍戦隊シンケンジャー」はそうではなかった。自分たちがチームとして戦ってきたことで積み重ねてきた時間を、信頼を、絆を、一度否定してバラバラにすることで、戦隊ヒーローとしての最大の危機を迎えさせたのだ。
ちょっと個人的な話になるが、以前mixiで親しくさせてもらってる人が「スーパー戦隊シリーズは "進化する伝統芸能" なんですよ」と話してくれた事がある。この表現は非情に秀逸で印象深かった。毎年毎年始まる新シリーズ。変わらぬスタイルと変化するモチーフ。たとえ同じモチーフだとしても、スタッフや役者、特撮技術や玩具の出来、世相や流行などから、同じ戦隊は二つと無い。
しかしどんなに時代が移っても、恐らく変わらないであろう部分がある。戦隊とは、チームで戦うヒーローであるという事だ。
戦隊の特徴を端的に表しているのが、巨大ロボ戦だろう。合体ロボだ。そしてあとから増えてくるアイテムやロボもどんどん合体して、最終的に一つの巨大なロボになる。異なる要素が組み合わさって、さらに大きな力になる…
団結・協力と言うカタルシスがここにある。個の限界を超えたところに見えてくる、他者とのつながり。共に戦う事で、一人一人でいる時よりも、より大きな力で、強さで、脅威に立ち向かっていく。
物語の中でシンケンジャー達は代々、侍として生き、戦う運命を担ってきた家系に生まれている。「人の世を守る」というヒーロースピリッツが、家の使命として伝承された特殊なヒーローだ。その大義故に若者たちは、自分を犠牲にして戦ってきた。生まれた時から定められた使命、定められたチーム。それらは伝統として伝え続けられている。
そしてその伝統故に、それまで常に皆を引っ張り、守り、重荷を背負い続けてきたシンケンレッドが、最大の敵との決戦を前にチームを離れてしまう。それまでレッドを当主と仰ぎ従ってきた侍達に深い葛藤が生まれる。
しかし彼等が戦っていたのは、唯、宿命故だったのだろうか。
この「シンケンジャー」六名にある絆は、伝統の主従関係だけなだろうか。
そうではない、と、彼等の戦いを見守ってきた視聴者は誰もが思うはずだ。
四人の侍が影を助けに走る。その強い思いが、外道の闇から丈瑠を救い出す。彼等がそれぞれが自分の言葉で語りかけることで、己に積み重ねられてきたものを、丈瑠自身が受け入れる。重責を負う事で誰よりも真摯に侍として生きてきた丈瑠が流す、殿の顔ではない、一人の青年としての涙… この一連のシーンは心が揺さぶられた。そこにあるのは、伝統の枠で、家系の業で、定められた主従関係ではない。私達が物語を通して見守ってきた、志葉丈瑠と、池波流ノ介と、谷千明と、花織ことはと、白石茉子の、五人の絆だ。
そして新たにレッドとして据えられた正統継承者もまた、孤独の中にあった。必死で会得した必殺技「封印の文字」が破られ、自身も大けがを負って、絶望の中で見いだした希望。それこそ、共に戦う仲間の存在なのだろう。
光と影が孤独を共有し、仲間の大切さを再認識することで再び、シンケンジャーは戦隊ヒーローとして動き出す。
この物語を通して見た時、やはり「侍戦隊シンケンジャー」は、志葉丈瑠と言う青年が、運命の中でヒーローとしての輝きを見いだすまでの物語だったのかなあと思う。それも戦隊ヒーローとしてのヒーロー像だ。孤独の影をたたえ、何かを抱えている風の主人公が、長い時間をかけて仲間との信頼関係を築き上げ、しかしヒーローとしての資格を剥奪されて闇に堕ちかけたのを、仲間の助けで復活し、再び戦い勝利する。失墜した英雄の復活に「仲間」の存在がキーになっているところが、戦隊ヒーロー故なのだろう。
養子にすると言う荒技ではあるが、正統な手続きで「殿」の資格を得ると言う展開も非常に面白い。この物語の世界観ではそういう「伝統的な正当性」を外してしまうと、ヒーローとして邪道になってしまうからだ。
余談だが最後に姫に見合い写真を見せる事で、志葉家の正統な血筋としての存続もちゃんと見せたのは成る程と思った。後もう一つ余談ついでに言えば、丈瑠が復活して以降の名乗りポーズは、グリーンとピンクは明らかに違った。それまでの落ち着いた印象のポーズと違って、鋭い動きがある。この二人が序盤、戦う伝統や主従関係に批判的だった事を考えると、感慨深いものがある。
シンケンジャーの最終決戦。
「策ならある。力ずくだ」それは個人の技と精神力を真っ直ぐに敵にぶつける戦い。日下部が駆けつけ、姫の渾身のディスクを側近丹波が届けることで、彼等はひとつになる。シンケンジャー達の絆に、伝統と言うくさびを打ち込んでいた悪役丹波のモヂカラが、最後のピースとしてはめ込まれた時、「侍戦隊シンケンジャー」は完全な戦隊ヒーローとして文字通りの総力戦になる。
「侍」と名付けられたヒーローの物語。
戦う運命と、個人の意志。受け継がれたヒーロースピリッツを自分の魂に重ね、定められた主従関係を超えた真の絆を得る。
親から受け継いだ愛と業。しかし人は、それにいつまでも縛られていてはならない。与えられた愛を受け取り、背負うべき業は背負って、自らの意思で歩かなくてはならない。
その時、初めて気付くものがある。揺るがぬ意思。研ぎ澄まされた力。紡がれた絆…
大義でも責務でもない、人の世を守る真のヒーローとして。
胸の内に見いだした光を共有出来る仲間達と、全員で勝ち取る勝利!
スーパー戦隊シリーズのヒーローとして、それ以上相応しいものはないだろう。
侍戦隊シンケンジャー、これにて一件落着。
この長いシンケンジャー考察を読んでくださった皆様、ありがとうございました。
色々と分かりにくさ、独りよがりな解釈もあったと思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
色々と分かりにくさ、独りよがりな解釈もあったと思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
帰ってきた侍戦隊シンケンジャー 特別幕 (初回限定版)


定価 6,300 円 (税込) のところ
価格 5,576円 (税込) 送料込
初回盤には、小学館監修の「シンケンジャー超全集」(AB版約90P、一般発売なし)
そしてアフターがここに!